五時限の古文の時間が来た。教師は怒号で有名のカミナリだ。彼に怒られた生徒は全身に電流が走ったかのように手足が痺れて、三日三晩、シビレが取れないと言われている。
カミナリは頭皮には髪の毛がないので、スキンヘッドのニッシーとは同類だから、未来ブログに書かれたことをこなすにはだいぶ楽かと思っていたが、ニッシーの顔色を見ると、そうでもなかった。
ニッシーの顔色はこの上なく蒼白しており、いつ、保健室に運ばれてもおかしくないぐらい、病弱な形相をしていた。しかし、そんな彼の顔色と反比例するかのように、私たちクラスメイトはニッシーの面白いことを待ち望んでいる。
――この重々しい空気の中、彼はどんなことをして、私たちに笑いをもたらしてくれるのか? ニッシーが言っていたとおり、私たちはテレビの視聴者気分である。
未来ブログにもコメントが寄せられおり、ニッシーは更に追い込まれていく。見ていなければどうってことはないのだが、ニッシーはカミナリの視線を盗みつつ、ケータイをちょくちょく確認し、肩を落とす。
どうしてみるのだろうか? 自分が苦しむだけなのに……
他人事のようにそれを見る私、どうやら私も少しずつこのクラスの空気に侵されているみたいだった。
ニッシーはケータイを何度か見て、左右に顔を振った。周囲のみんなも、うんと頷いた。何か面白いことをやるつもりだ。
カミナリが黒板に古文の助動詞の種類を書き出すと、ニッシーはバっと、立ち上がり、すぐ座った。
みんなはぷっと吹いたが、それが面白いとは言えず、ケータイで面白くないぞ! という書き込みがされた。それをケータイでチェックしたニッシーは机の上でガバッと覆いつくすように倒れた。
……なんだか、そんな彼の姿が哀れに見える。もはやこれは公開処刑だ。
だんだんと追い込まれて、精神が病んでいくニッシー。ろくにできもしないのに、シャーペンでペン回しをしたり、ルーズリーフの紙で折鶴を折っていく。自分でできる精一杯のギャグも、周りからしてみれば、何それというレベルであった。
未来ブログで書き込みは続く。書き込みが続くほど、彼の精神は限界に近づく。
――面白くないはタブー、けれど、そのタブーに知らずに触れて、コメントは不満と罵倒の嵐になっていく。
クラス中はこちらの方がメインとなり、ニッシーの悪口を書くことを楽しみようになっている。もはや学校裏ブログにあった実況イジメの方法であった。
完全に追い込まれたニッシーは何を思ったのか、ゆっくりと手をあげた。クラスメイト達はそれを、何か面白いことをする合図だと見ていた。
「せんせい……」
カミナリはニッシーの様子に気づかず、助動詞の断定の活用法を黒板に書いていた。
「先生!」
カミナリはゆっくりと振り返り、邪魔くさそうに、返事する。
「なんだ?」
「あの、ちょっとトイレいっていいすか?」
その瞬間、クラスの数人はまた、ぷっと吹いた。ニッシーの精神が追い込まれている様に笑っているようだ。更にそれに追い討ちをかけるように、カミナリは更に訊いてくる。
「もうちょっと、大きな声でいいなさい」
思いもよらない反撃にクラスメイトの数人は笑いを我慢する。両手で口を塞ぐもの、ぐっと腹筋に力を入れるもの、教科書で自分の顔を隠すものなど、笑いを抑え込もうと多種多様の方法で抑えていた。
「え、あの、……トイレ、です」
「わかった、行きなさい。15分以上だと遅刻扱いにするからな」
カミナリの余計な一言が追い討ちになり、クラスメイトの数人はガハっと笑った。そんな笑いの渦に包まれて、ニッシーは教室の外へと出て行った。
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“未来ブログ”は、親友のカコに頼まれて、書くことになった。すると、“未来ブログ”で書いたことが次々と現実で起こるようになってしまった!