栗林君に肩を叩かれたニッシーは私ににじり寄るのをやめ、彼と対面した。
「なんだ? クリバヤ? 何か用があるのか?」
「わすれもの」
「そうか、わすれものを取ったら、早く行ってくれよ」
「そうもいかない。上村が書いたという確認が取れていない」
「書いていないという確認もできないだろう?」
「西川、それはな、悪魔の証明っていってな、証明できないからあると言っているようなもんだ。それで騙されるのは、せいぜい小学生ぐらいだぞ」
「うるさい。じゃあ、お前なら証明できるのか?」
「確実とは言えないが、未来ブログの管理人ではない、という証明はできる」
「どんな方法だ」
「それはな、俺が忘れていたものに関係する」
栗林君は自分の机へと向かって、机の中を漁る。
「俺が忘れていたのはコイツだ」
栗林君の机から出してきたのはケータイ電話だった。
「ケータイ電話?」
「ああ、そうだ、で、これが、その証明だ」
栗林君はケータイの画面を私たちに見せてきた。そこに写っていたのは、先ほどチェーンメールで一斉配信された玲子のメールだった。
「あのな? これがどういう風に証明できるっていうんだ?」
「上村、お前、ケータイ持っているか?」
「うん」
あまり考えず、うんとうなずいた。
「そうか、ちょっと玲子から送られてきたメール見せてくれるか?」
「いいけど」
私はあまり考えず、ケータイ電話をカバンから取り出し、玲子、つまり、カコから送られてきたチェーンメールを見せた。
「……そうか、上村は玲子じゃないか」
栗林君は私のメールを確認すると、一人で納得する。置いてきぼりになったニッシーはすかさず、それについてたずねる。
「クリバヤ、なんで納得できるんだ? なあ?」
「簡単なこと、そのメールが受信メールだからだ」
栗林君は二カッと笑い、私が玲子ではない、という証明を説明する。
「玲子がチェーンメールを発信しているのなら、俺らは受信メールとして受け取っている」
「そうだな」
「でも、チェーンメールを自分で送信して、自分で受信するまず奴はいない」
「送信者が受信者になることはないってことか?」
「ああ、そういうことだ。送信者は送信メールとして残っている。といっても、フリーメールは何処かのメールサイトを経由して送信してるのだから、ケータイの中に送信メールが残らない」
「どっちにしろ、ケータイの中に送信メールなんて見つからない。だったらケータイを見る意味が……」
「待て待て、送信者には“ある”ものが“ない”。それは何かってわかるよな」
ニッシーは栗林君が指摘する、あるものがない、点について、気づく。
「……まさか」
「そうだ。“受信メール”があるんだ」
栗林君は受信メールがあれば、玲子ではない理由を説明していく。
「何度もいうが一斉のチェーンメールに自分にも受信メールを送りつけるヤツはいない。玲子から送られた受信メールがケータイの中に残っていること=送信者ではない=玲子ではない。わかるよな」
「……ああ」
「だが、上村のケータイ電話には玲子から送られてきた受信メールがあった。これこそ、玲子ではないという最大の証拠なんだ」
ズバッと見抜いたと言わんばかりに、栗林君はニッシーを追い詰めた。
しかしながら、この推理には間違いある。チェーンメールが送り係と、未来ブログを更新する係がいれば、この受信メールのアリバイは簡単に崩される。果たして、ニッシーはそれに気づくか?
「……」
ニッシーは気づくどころか、何もいえわず、ただ栗林君の推理に辟易するばかりであった。ニッシーは受信メールのアリバイを見破ることができず、ただ黙るばかり、完全に、イニシアティブ(先導権)はこちらに分があった。
――まさかの逆転劇、栗林君の機転の良さと、私の運があってなしえたものだ。
栗林君がいなかったら、このままニッシーからどんなことをされたのかわからない。
また、私一人で未来ブログを作って、それをチェーンメール配信していたら、この時点で私は玲子だとバレたのかもしれない。……ぞっとした。
「上村、ケータイもういいぞ」
「あ、はい」
私はケータイをカバンの中に入れた。
「西川、とかく、謝れよ。例え、上村が未来ブログの管理人だとしても、お前がやったことは許されるものじゃない。わかっているな」
栗林君の指摘でずっと下を向いていたニッシー、しばらくして彼はすっと顔を上げて、私の前に来るかと思うと、私の目の前で思いっきり頭を下げた。
「ミキ、いや。上村さん。ゴメンナサイ。俺どうかしていた」
「うん」
いきなり慇懃無礼(いんぎんぶれい)な態度を取られても反応が困る。実際、私、玲子だから、なんだか、居心地が悪い。
「こんなことをいうのは恥ずかしいけど、今日、いや、明日からでいい。普通のクラスメイトとしてやっていってもいいかな」
「うん、私はいいけど」
「そうか、ありがとう」
ニッシーは調子のりでカッとしやすいけど、根はまじめでいいコなんだと思った。
「もう帰るな、これ以上、俺がいるとなんだか悪いから」
ニッシーはカバンを手にし、教室から去っていく。まるで私の前から逃げていくようにも見えた。
04 | 2024/05 | 06 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | 3 | 4 | |||
5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 |
12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 |
19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24 | 25 |
26 | 27 | 28 | 29 | 30 | 31 |
“未来ブログ”は、親友のカコに頼まれて、書くことになった。すると、“未来ブログ”で書いたことが次々と現実で起こるようになってしまった!