栗林君と二人っきりになった。本来ならこの状況はオイシイんだけど、先ほどがアレだったから、今はもう家に帰りたい。かといって、今から出て行くとニッシーに遭遇しそうで余計に気まずい、どうしよう。
そんなこんな逡巡していると、栗林君は私を背にしてここから立ち去ろうとしていた。
「栗林君?」
なぜか、私は遠ざかる後ろ姿に向かって声をかけてしまった。
「なんだ?」
「あ、その……」
「チェーンメールのことか?」
「うん、あの、その……うん」
ホントは違ったけど、うん、と肯定してしまった。
「気づいたか。実はな、あのチェーンメールには穴があるんだ。西川にそれが気づかれるかどうか、ひやひやしたわ」
「穴って、やっぱり」
「ああ、あのチェーンメールの送信先に自分のケータイアドレスを入れれば、自分にも受信メールが届く。この点について、西川が気づいていないなんて、まだまだ詰めが甘いもんだ」
栗林君の推理は違っていたけど、チェーンメールの送信先に自分のケータイアドレスを入れられることは知らなかった。
――もし、私がチェーンメールを発信していたら、この時点で終わっていたかもしれなかった。受信メールのアリバイが勝手にできた私はかなり運がいいと言えるだろう。
「ま、ここまで頭がまわっていたなら、玲子って奴はかなりのやり手だ。受信メールを自分のケータイに入れているんだから、よほど、未来ブログで何かをとんでもないことをしようとしているかもな」
私の顔を覗きながら、栗林君はそう指摘する。彼はまるで私のことを玲子と見ているみたいだった。
……だからだろうか、こんなことを言ってしまったのは?
「ねえ、栗林君は私が玲子だと思う?」
彼からの視線を避け、下向きながらこんなことを言ってしまった。
「受信メールがあるから違うだろう?」
「いえ、私が受信メールがなかったら、疑っていた?」
「いや、受信メール拒否設定があるから、受信メールがなくても犯人とはいえないな」
「違って、そういう受信メールとかじゃなくて、私が玲子だと思ったと聞きたいの?」
なんでこんな危なげな橋を渡るのだろうか? たぶん私は彼の本音を聞きたかったのかもしれない。
二人きりというめったにないシチュエーションに私の気持ちは少しずつ加速していき、それが言葉として出てしまった。ただ、栗林君が、おまえはそんなことをしない、という言葉をほしがった。私は栗林君の返事に期待していたのだ。
期待に胸が膨らんで、息苦しくなってきたとき、栗林君は口を動かした。
「書くのか?くだらないことを?」
「え?」
栗林君から返ってきた返事はとてもシニカルなもので、私が求めていない言葉であった。
「未来ブログがくだらないって?」
「ああ、最悪にくだらない。何が楽しくて書いているのかわからないし、何が目的なのかわからない。もし、書いているヤツが誰かわかれば、オレ、幻滅するな」
私は何もいえなかった。玲子に対する栗林君の意見がそのまま、私の醜い心を指摘しているようにも見えた。
「おっと、もう帰るな。もし、未来ブログに何か書かれても無視するのが一番の手段だぞ」
「うん、ありがとう」
栗林君は教室から出て行くと、私は窓側から見えるグラウンドを見ていた。野球部員が大声で言う「ドンマイ」って声が、なんだか、悲しく私の心を突き刺した。
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“未来ブログ”は、親友のカコに頼まれて、書くことになった。すると、“未来ブログ”で書いたことが次々と現実で起こるようになってしまった!