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現実ブログに書かれていることは既に起きたことである
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 ニッシーが教室から出て行ってから五分が経ち、未だに帰ってこない。私は少しニッシーが気がかりになり、ケータイから未来ブログのコメントを見ることにした。
 ――これはひどい。
 未来ブログのコメント欄は、ニッシーを面白くないという批評をしていた。しかも、ニッシーをギリギリまで追い詰めるようなことばかり書いていた。ニッシーのプレッシャーはかなりのものだったと伺うことができた。

 おそらくニッシーはトイレでケータイから未来ブログのコメント欄を見て、打開策を考えているはずだ。だが、打開策は何処にもなく、あるのは罵倒と批判のみ、彼の助け舟は何処にもなかった。
 ……どうにかして、救ってあげたい。
 元々これは私がしたことだ。提案したのはカコだが、それを受け入れた私にも罪がある。何か彼を手助けできる方法はあるのか? と思いながら、ふと、あるものを見つけた。未来ブログのコメント欄だった。
 ――これは使えるかもしれない。
 私はそのコメント欄の一部を引用し、あるコメントを書き込んだ。名無しだと、パッと見、スルーされると思ったので、ここは、助け舟、という名前で書き込みし、自己アピールしてみた。 
 
 私がコメントを書き込むと、クラスメイト達はこぞって、そのコメントに食いついてきた。これでいい、後はニッシーがこの言葉が言えるかどうかにある。
 ――この未来ブログのコメントを見ていないクラスメイトなら笑わない。だが、コメントの流れを全て見ているクラスメイトなら必ず笑うはずだ。
 私はニッシーが私のコメントを見て、それをやってくれるのかと期待しながら、黒板に書かれている、助動詞の断定「なり」の用法を、ノートに写した。

 廊下側から無機質な足音が近づいてくる。ニッシーが帰ってきた。ニッシーがトイレタイムを取ってから十分近く、遅刻扱いにはならなかった。
 ガラガラと教室のドアを開けたニッシーはボーと立っている。カミナリは呆然と立ち尽くすニッシーの様子を見て、疑問を持っている。
 ……カミナリが冷静さを取り戻すまでのこの一瞬がチャンス、後は、もう、タイミングだけだ。未来ブログに書かれたことを言えば、いいのだ。
「先生、トイレ行って来ました……」
 ここまでは誰でも言える。後はアレを言い切れば、笑いは取れる。
 今か今かと待ち望む期待の視線に答えるように、ニッシーは意を決して、最後の言葉を発した。
「……ナリ」
 その瞬間、私達は今まで我慢していた笑いをバッと出してしまった。
「アハハハハ!」
「死ぬ死ぬ死ぬ!!」
「ナリだって、カミナリにナリだって、ナリリリ!?」
 もう相手がカミナリだろうが、どうでもいい。私達は今まで体に蓄積させてきた笑いを全て外へ吐き出さないと元には戻れない。
「何、笑ってるんだ? 西川に失礼だぞ」
 いや、むしろ、ニッシーにとって、この笑いは、ライスシャワーの洗礼よりもありがたいものだ。ニッシーも顔も心なしか笑っているようにも思える。
「俺、元の席に戻りますね」
 何事もなかったかのように装うニッシー、いやに誇らしげだ。クラスメイトの数人らはそんな様子にも敏感に反応し、大笑いしていた。
「もう、そろそろ、授業に戻ってもいいよな?」
 そうたずねられるとクラスの笑いはピタッと止まり、カミナリは授業を続けるようとする。

 しかし、一度、緩んだものを元に戻すのは難しい。涙腺しかり、ヒトの頬もそうだと言える、。どんなくだらないことでも【それ】に関することを言ってしまえば、腹を抱えて笑ってしまう。私達は既に笑いのツボにハマッタのだ。

 そう喩え、それが本人の意図しないところでも、笑ってしまうのだ。
「で、この助動詞の断定の【なり】は」
 その瞬間、教室中は大爆笑の渦に包まれ、ハハハ!! と笑いだした。
「ナリ! ナリ! ナリ!!」
 クラスの数人の笑いで、授業は妨害され、さすがのカミナリも怒り心頭のご様子だ。
「おい、なんで、笑っているんだ? みんな」
 カミナリは威嚇のつもりであったが、クラスにしてみれば、その威嚇は火に油を注ぐようなものであった。
「だって、カミナリがナリにナリって!!」
「死ぬぅぅぅうううーーーー」
「先生、もうナリナリって言わないでください!!」
「オレ、腹筋崩壊!!」
 クラス中がわけのわからない笑いに包まれていく。未来ブログを知らないであろう一部の生徒はこの笑いの異変に気づく。
 いや、この状況下で、一番恐怖を感じているのはカミナリであろう。
 自分が面白いことを言ったはずがないのに、大笑いするこのクラスは不気味なものだと言えよう。

 ……どう考えても笑いのポイントがわからない。何処が面白いのか? そんなに面白いことを自分はしたのか?

 この笑いの理解をできず、気持ち悪いものがカミナリの背筋に入り込んでいく。
「なにがおかしい!?」
 授業妨害の叱る威嚇ではなく、純粋にそうたずねる。しかし、誰も答えてはくれない。
「なにがおかしいって、なりが!!」
「なりがおかしいに聞こえる!!」
 クラスメイトの誰かが笑いながら説明するが、もちろん、カミナリがこの意味を理解できるはずがない。
「ちゃんと答えなさい! 誰か説明しなさい!」
 きっとカミナリはこの笑いの意味を理解できず、この先ずっとこの笑いの謎に苦しみ続けるに違いない。そう思うと、更にはらわたがよじれて、おかしくなる。私もまた、腹筋が崩壊しそうだ。

 笑いが堪えない二年二組の教室、それに対して、置いてきぼりになるカミナリと一部の生徒達。この笑いが治まるまで授業はしばらく中断することになった。

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1991/11/05
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高校二年生
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ケータイイジリ
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 この現実ブログは私が持つ、“未来ブログ”についてまとめたブログ。
 “未来ブログ”は、親友のカコに頼まれて、書くことになった。すると、“未来ブログ”で書いたことが次々と現実で起こるようになってしまった!
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